ダブル不倫の慰謝料を請求する際に気を付けるポイント
1 ダブル不倫では慰謝料問題が複雑になる
配偶者が浮気・不倫していたときに、その不倫相手にも配偶者がいる状況を、一般に「ダブル不倫」といいます。
つまり既婚者同士での不倫です。
ダブル不倫のケースでは、被害者が2人、加害者が2人いることになり、慰謝料問題が複雑になります。
時には裁判に発展することもあるでしょう。
この記事では、ダブル不倫の慰謝料について、具体的な事例を使いながら解説します。
夫婦が「離婚する場合」と「離婚しない場合」に分けて解説しますので、ご自分の状況に照らしながら考えてみましょう。
2 ダブル不倫の慰謝料請求
肉体関係ある不倫は、法律上は「不貞行為」にあたるとされています(民法770条1項1号)。
そして、一般に不貞行為をされた人(被害者)は、不倫をした配偶者と不倫相手に不法行為に基づく損害賠償請求を行うことができます(民法709条、710条)。
しかし、ダブル不倫では被害者も加害者も複数いて関係が複雑になります。
例えば、男性Aと女性Bの夫婦と、男性Cと女性Dという2組の夫婦を考えてみましょう。
女性Bと男性Cが不倫し不貞行為に至った場合、女性Dは自分の配偶者である男性Cと、不倫相手である女性Bに慰謝料請求ができます。
同様に男性Aも、男性Cと配偶者女性Bに慰謝料請求ができます。
このように、2組の夫婦が相互に慰謝料請求できるのが、ダブル不倫の特徴です。
ここからは主に慰謝料請求者が「離婚する場合」と「離婚しない場合」に分けてご説明します。
3 慰謝料請求者が離婚する場合
慰謝料請求者が離婚する場合、ダブル不倫であっても通常の不倫慰謝料と考え方は変わりません。
例えば、先ほどの例で女性Dが男性Cと離婚をして慰謝料請求する場合、配偶者である男性Cに請求しても、不倫相手である女性Bに請求しても、その双方に請求しても問題はありません。
4 慰謝料請求者が離婚しない場合
問題になるのは、例えば女性Dから女性Bへの慰謝料請求と、男性Aから男性Cへの慰謝料請求との2つの請求がされるときに、それぞれの夫婦が離婚しないケースです。
請求者が離婚しない場合、夫婦として通常は家計を共通にしていますので、先ほどの例で言えば、女性Dが不倫相手(女性B)に請求しても、男性Aからも自分の配偶者(男性C)に請求されたなら、お互いに夫婦の家計から慰謝料を支払いあうことになります。
慰謝料請求の労力や、時として訴訟になり費用がかかることも考慮すると、夫婦が離婚せず、かつ相手方から請求されていない場合には、自分たちも「あえて慰謝料請求しない」という選択肢もあるという点は知っておくとよいでしょう。
慰謝料請求すれば、当然相手夫婦からも請求されるため、藪蛇になることもあります。
とはいえ、慰謝料額は事案によって異なりますので、AB夫婦とCD夫婦とでそれぞれ受け取る慰謝料額は異なる可能性があります。
したがって、離婚しない場合でも、相殺されて慰謝料請求が無意味になるとは限りません。
以下では、更に詳細なケースを想定して考えてみます。
⑴ 既に相手方から自分の配偶者に請求されている場合
先ほどの例で、不貞相手の配偶者(男性A)が既に自分の配偶者(男性C)に慰謝料請求している場合、請求者(女性D)も不貞相手(女性B)に請求することが有効です。
相手からの請求分を取り戻せる可能性がありますし、話し合いや訴訟の経過によっては、お互いに支払わないよう合意する「ゼロ和解」にできる場合もあるからです。
⑵ 自分が請求できる慰謝料額が明らかに相手より高額なとき
慰謝料というのは精神的苦痛への賠償ですから、いくらになるかは究極的には裁判を行って判決を得なければ確定しないものですが、一般的に次のような要素があるときは高額になりやすいとされています。
・婚姻期間が長い
・不倫の期間が長い、回数が多い
・幼い子どもがいる
・不貞行為までの夫婦関係がよかった
・支払う側の社会的地位が高い、収入が多い
したがって、これらを始めとした様々な要素に照らし、請求者(女性D)の慰謝料額が相手方配偶者(男性A)の慰謝料額より明らかに高額であれば、慰謝料請求をしたほうがいい場合もあります。
ただし、慰謝料額がどの程度になるかをご自分だけで判断するのは難しく、うかつに請求すると労力だけがかかって何も得るものがなかった、ということもあり得ますので、もしご自分の請求できる慰謝料額が高額になると思われる場合は、一度弁護士にご相談ください。
5 不倫慰謝料の負担割合と求償権
不倫した配偶者と離婚せずに慰謝料請求する場合、慰謝料の「負担割合」についても非常に重要になってきます。
不貞行為というのは、2人以上の人がいてはじめて成立するもので、法律上は「共同不法行為」というものにあたります(民法719条1項)。
そして、共同不法行為をした人は、被害者に対してそれぞれが損害全額を賠償する義務があるとされています。
しかし、共同不法行為者の間には「負担割合」というものがあり、自分の負担分を超えて支払った場合には、他の共同不法行為者に「求償」できるとされています。
例えば、不倫相手(女性B)と不倫した配偶者(男性C)の負担割合が5:5、慰謝料額が200万円だとしましょう。
このとき、女性Bが請求者(女性D)の請求を受けて200万円を支払ったあと、自分の5割の負担割合を超えた部分100万円について、男性Cに求償(請求)することができます。
仮に女性Bの負担割合が2割なら160万円を男性Cに求償できることになります。
つまり、不倫した配偶者と離婚せず、自分の請求できる慰謝料額が高額だと思って請求したときでも、実は不倫した配偶者の負担割合が大きく、求償された結果、家計としてはマイナスになってしまう可能性もあるのです。
ただし、場合によって、求償権は放棄してもらうことも可能です。
示談(和解)で求償権を放棄してもらう場合、示談書にその旨を記載するのを忘れないようにしましょう。
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