名誉毀損の損害賠償|意見論評型より事実適示型で請求すべき理由
インターネット上で名誉毀損をした投稿者に損害賠償請求するには、発信者情報開示請求で住所氏名を明らかにする必要があります。
発信者情報開示請求・損害賠償請求をするうえで第一関門となる法的論点が、「意見論評型」か「事実適示型」かという名誉毀損の類型です。
意見論評型は、事実適示型よりも名誉毀損に対する法的措置を阻止してしまう「違法性阻却事由」を乗り越えられないリスクが高くなってしまうからです。
ここでは、名誉毀損の損害賠償請求、そのために必要となる発信者情報開示請求において、意見論評型ではなく事実適示型の投稿により名誉を毀損されたと主張する重要性について説明します。
1 事実適示型と意見論評型
名誉毀損は、その内容が客観的な事実か主観的な感想かによって、事実適示型と意見論評型に分かれます。
この二つの類型について、最高裁平成16年7月15日判決が分かりやすく整理しています。
- ・事実適示:証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的または黙示的に主張するものと理解される投稿
- ・意見論評:証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などを内容とする投稿
端的に言えば「投稿内容が本当かウソかを証拠で証明できるか」が、理屈の上での定義を区別しています。
なぜこの区別が重要となるのか、それは意見論評型では名誉毀損に基づく法的措置で最大の障害、「違法性阻却事由」がないと立証することが難しいからなのです。
2 違法性阻却事由
発信者情報開示請求でも損害賠償請求でも、「投稿が違法であること」が請求の条件となります。
違法性阻却事由が満たされると名誉毀損が違法でなくなってしまうため、各種請求ができなくなってしまいます。
⑴ 違法性阻却事由とは?
名誉毀損が成立するには、「社会的評価の低下」や「同定可能性」などの条件を満たす必要があります。
しかし、不祥事の暴露や他人への批判を何でも名誉毀損としてしまっては、言論・表現活動が委縮してしまいます。
違法性阻却事由は、他人の名誉を傷つけるような表現でも、一定の条件を満たせば違法性を否定することで言論の自由を守るための制度です。
名誉毀損を受けた側としては、「違法性阻却事由が備わっていないから違法のままである」ということまで主張しなければいけません。
⑵ 事実適示型と意見論評型の違法性阻却事由
事実適示型と意見論評型では、一部の違法性阻却事由が異なっています。
刑法230条の2第1項が違法性阻却事由を定めていますが、これは事実適示型にしか当てはまりません。
意見論評型を認めた最高裁平成9年9月9日判決が、同時にその違法性阻却事由を明らかにしています。
事実適示型
- ①公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
- ②専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
- ③摘示された事実が真実であると証明されること(真実性)
意見論評型
- ①公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
- ②専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
- ③意見論評の前提としている事実が真実であると証明されること(真実性)
- ④人身攻撃に及ぶなど意見論評としての域を逸脱したものでないこと(非逸脱性)
すべての違法性阻却事由を満たすことで、名誉毀損は違法ではなくなります。
違法性阻却事由が適用されないようにするには、3つ〜4つのうち1つでも欠けていると証明できればよいわけですから、一見、さほど難しくないようにも思えます。
ところが、違法性阻却事由のうち公益性・公益目的(・非逸脱性)などは緩やかに認められてしまう傾向があります。
3 意見論評型の問題点
請求の成否の鍵を握る「真実ではないとの証明」において、意見論評型はその性質上、どうしても事実適示型よりも失敗するリスクが高くなってしまいます。
意見論評型の名誉毀損で真実性を否定することは簡単ではありません。
感想を抱く根拠となった事実自体は、実際にあったことがほとんどだからです。
本当は体験していない事実に基づいて嫌がらせの書き込みをしていると推測できても、そうだと証明できる資料が必要です。
⑴ 意見論評型における反真実性立証
名誉を害している意見論評が「前提としている事実」こそ、意見論評型における反真実性立証の対象です。
一方、事実適示型であれば、ウソだと証明すべき事実は「適示された事実」そのものとなります。
この点に両者の大きな違いがあります。
意見論評型では、名誉を傷つけている部分ではなく、その背後にある事情の真偽が問題となるのです。
⑵ 感想やレビューへの法的措置は難しい
「あの店のラーメンは不味い」といった感想は、どうして不味いと感じたのか根拠となる事実すら分かりません。
あえて「前提としている事実」を挙げれば、それは「店でラーメンを食べた事実」となります。
レビューや口コミは投稿者の体験を前提としている限り、評価内容が名誉を傷つけるもので不当だと思えても、少なくとも「前提事実が本当のことではない」とは言えないのです。
仮に同業者が嫌がらせで来店してもいないのに低評価のレビューを書き込んでいたとしても、その証明が必要です。
急遽休業にしていた日に来店したとしている、監視カメラや信頼性のある顧客名簿に記録が無いなど、客観的事情と投稿者の体験が矛盾していれば、前提事実の反真実性を証明できるでしょう。
しかし、そのような例外的事情が無い限り、なかなか主観的な感想や口コミ・レビューへの法的措置は難しいのが実情です。
4 損害賠償金への影響
直接的な違いとまではいえませんが、意見論評型の構成を取らざるを得なくなった結果、勝訴できても損害賠償金が低くなってしまうおそれもあります。
意見論評型の名誉毀損が違法性阻却事由により認められなかったとしても、「名誉感情侵害」だとして賠償請求できるかもしれません。
しかし、名誉感情侵害が認められるかは名誉毀損以上に見通しが立ちづらく、その慰謝料相場は名誉毀損よりも低いのです。
5 まとめ
名誉毀損で損害賠償請求をしたいのであれば、投稿内容に「事実」を探すことが、インターネットの名誉毀損対策の基本です。
投稿者の住所氏名を発信者情報開示請求で明らかにする、そのために違法性阻却事由が投稿に備わっていないと主張するには、できうる限り事実適示型の名誉毀損だと構成することが決め手となります。
事実適示型と意見論評型の区別は、裁判所の判断が具体的な事情次第で揺れ動くほどあいまいです。
発信者情報開示請求は通信記録が消去されてしまう前に手続を処理しなければならず、迅速に専門的な判断をする必要があります。
インターネット上で誹謗中傷を受けている方は、ぜひお早めに弁護士にご相談ください。